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「中国屋兼タイ屋」のラオス探訪記(その1)

1. はじめに


 ラオスは、人口約700万人の内陸国ですが、日本人にとって必ずしもなじみがある国ではないのが正直なところでしょう。タイにいても普段の会話の中でラオスの話が出ることはあまりありませんが、ルアンパバーンなどはタイ人もこぞっていいところだ(ないしはいいところ「らしい」)という感じで、日本人よりも身近な感覚を持っていることは確かです。そもそもラオス語(ラーオ語)も言ってみれば広義のタイ語の一種であって、タイ東北部の方言(イーサーン語)との連続性が存在します。そういう意味でも、ラオスは「タイ屋」である筆者にとって最近興味をそそられる国となっていました。


 その一方、報道などで、中国からの高速鉄道が首都のヴィエンチャンまで伸びてくるなど、ミャンマーやカンボジアともども中国の一帯一路政策の影響が及んでいるなどということを耳にすれば、筆者の「中国屋」としての虫がうずいてしまうのは当然の成り行きです。


 というわけで、百聞は一見に如かず、ないしは「実事求是」の実践として、週末を使っての、かつ、ヴィエンチャンのみのショートトリップではあるものの、「中国屋兼タイ屋」の日本人弁護士の目から見たラオスの訪問記をお届けしたいと思います。


2.  いろんな文化が混ざり合っているヴィエンチャン


 ラオスの首都のヴィエンチャンは、タイの東北部のノーンカーイとメコン川を挟んで向かい合っているラオス最大の都市です。バンコクからも飛行機で1時間10分ほどです。

ただ、その街の様子は、今まで見た「首都」の概念とは全く異なっていました。日中の人通りもさほど多くなく、渋滞もほとんどなく、広い道路は大統領宮殿から凱旋門までの通り程度です。高層建築物もないので、首都なのに空がとても広く感じられます。


 また、ラオスは、歴史的にはラーンサーン王国などに由来する山岳タイ人の文化、旧フランス領インドシナに由来するフランス文化、そして現在の社会主義体制に基づく社会主義的雰囲気が混然としているところが興味深いところでもあります。ヴィエンチャンでは、このことは、あちこちにある仏教寺院や言語(山岳タイ人の文化)、人口の割に充実度の高いカフェや通りなどにみられるフランス語表記(フランス文化)、そして国旗と党旗とが並んで掲揚されている様子(社会主義的雰囲気)という形で見ることができます。

なお、これとは別に、旧フランス領インドシナかつ社会主義体制という類似性があるからでしょう、ベトナムとの関係が思いのほか深いようです。外資系の銀行では、ベトナムの銀行を一番多く見たような気がしますし、在ラオスベトナム人向けの学校などの施設もそこかしこに見ることができました。

ワット・シーサケット
ワット・シーサケット
通りの名前の看板。フランス語での記載。
通りの名前の看板。フランス語での記載。
国旗の党旗
国旗の党旗

3. ラオスの通貨事情


 ラオスの法定通貨は、キープ(キップという記載もありますが、ラーオ語のスペルからはキープの方が近いと思います。)ですが、現在キープの下落が止まりません。筆者がラオスに訪問した時点では、概ね1バーツ=4円=560~570キープの感覚です。

 飛行機の中では、「ラオスではキープを使え、そうでなければ違法である」という注意のアナウンスがなされていましたが、市中ではむしろバーツの方がありがたがれ、米ドルも大丈夫なようです。

 また、上記のような事情で、キープから外貨への再両替は少なくとも表向き制限されているようです。実際、筆者は、帰りに空港で再両替しようとしたのですが、断られてしまいました。ラオス到着後、空港で3000バーツを両替して170万キープ程度を調達したのですが、結局60万キープ以上手元に残ってしまいました。


4. 中国の影響(その1)―街にあふれる中国語


 これまで影響受けてきた各種文化のミックス状態のラオスですが、現在、この国に最大の影響を及ぼしているのは、まぎれもなく中国です。

中国の影響は、早速、バンコクからヴィエンチャンへの飛行機移動から感じました。乗客に中国人客(おそらくビジネスマンだと思いますが)が明らかに多いのです。これは、ラオスが中国に対してビザ免除を提供していることも影響しているかもしれませんが。

 そして、ラオスの入国カードの裏面は、ある経済特区の紹介がラーオ語、英語、中国語、韓国語4言語で書かれており、降り立ったヴィエンチャン空港のボーディングブリッジには中国工商銀行の広告が掲げられていました。


 そして市内へのエアポートバス。これも、かつては日本からの中古バスが走っていたようですが、それも今やBYDのハイブリッドバスのお古。空港近くの大きな広告看板は、中国系ゼネコンのものが多く見られ、市内の会社や店の看板にも中国語が記載されているものが少なくありません。ちなみに、ホテルで提供された歯ブラシセットの中の歯磨き粉も筆者にはなじみ深い「中華」ブランドでした。

 そして、工事中の商業用建物(会社やホテルなど)の多くが中国のゼネコンによるもので、やはり中国語の表記があります。

このように、ラオスの中国への影響は、ある意味筆者の想像を上回るものでした。


5. 中国の影響(その2)―中国語が第1外国語?


 さて、筆者は、大統領宮殿からの直線道路(フランスのシャンゼリゼ通りのような感じでしょうか)を北方向に歩き、凱旋門にたどり着きました。と、若いお坊さんが、「ニーハオ、ラオスは初めてですか?」と中国語で声をかけてきました。かつてミャンマーでニセ坊主に10ドル巻き上げられたことがある筆者としては、余り関わり合いになりたくなかったので、「そうだよ。でも僕は中国人じゃなくて、日本人なんだ」と中国語で返してさっさとやり過ごそうとしました。しかし、よく考えれば、なんでこんなに若いお坊さんが中国語を話すんだ、と思うととても不思議です。そこで、筆者の方から逆に声をかけてみました。

果たして、この話しかけてきた青年僧は、現在出家中であるもののラオス国立大学(ラオス最高峰の大学)の学生で、大学の孔子学院で1年間中国語を勉強してきたとのことです。筆者の感覚では、中級上位といった感じでしょうか。それでも、留学せずにわずか1年間でこのレベルまで行っているのですから、非常に優秀な学生なのだと思います。

ともあれ、筆者は、凱旋門からタート・ルアン(ラオスを代表する仏教寺院の一つ)まで、この学生とその友人の僧侶たちと一緒に行動することとし、その間ずっと中国語で会話していました。

 青年僧によれば、今、ラオス国立大学では、外国語を選択する際の第一候補は中国語であるとのことで、実際同行した5、6人の青年僧たちの中にはほかにも片言の中国語を話す人もいる一方、英語を話せるのは1名かつ初級レベルという感じでした。

これは、大学教育の場にも中国が語学教育等を通じて浸透してきていることの現れであり、孔子学院という施設の意義について改めて考えさせられる話でもあります。

そして、彼らは、いつかは中国に留学したい、中国で仕事をしたい、そうでなくてもラオス国内で中国系の会社で働きたいなどという夢を語っていました。彼らの前途に幸あれ、と思わずにはいられません。

青年層と筆者。タート・ルアンにて。
青年層と筆者。タート・ルアンにて。

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