top of page

「反外国制裁法」を(自分なりに)読む

更新日:2023年7月21日

1 はじめに

中国は、2年ぶりにイギリスで行われたG7のサミットの機を制するタイミングで、2021年6月10日に「反外国制裁法」(「本法」)を公布し、同日から施行されました。

本法の概要は、既にニュースなどでも多く報じられているところですので、ここではその規定の1つ1つについて説明することはしません。私のひねくれた性格は、「そのようなありふれた解説では面白くない」と思ってしまうのです。この点なにとぞご容赦ください。

というわけで、ここでは、中国法務に約20年携わってきた一弁護士として、本法に対して感じたことを少し述べたいと思います。


2 本法から垣間見る中国外交の本質

本法は、わずか16条からなる短い法律であり、それだけでも(政治的理由により?)いかに急いで作成されたかを窺い知ることができる法律です。また、内容面についても、「おまいう」的な部分を含め、短い割にはある意味突っ込みどころ満載の法律であることは確かなのですが、1954年の周・ネルー会談において示された平和五原則を改めて標榜している(第2条)などの規定ぶりからすれば、本法は、毛沢東以来の中国の外交姿勢・政治姿勢の延長線上にあると位置付ける方がむしろ正しいのかもしれません。

加えて、外交部の報道官のステートメントからは、戦狼外交などと呼ばれている昨今の中国外交の根底にもこのような姿勢が見受けられます。とすれば、中国外交の本質は、実は建国以来何も変わっていないというのが正確な状況認識なのかもしれません。少なくとも、本法は、そのような思いを抱かせるには十分な内容だと思います。


3 そもそも本法制定の必要性はあるのか?

既報のとおり、本法は、外国からの差別的措置に対して報復措置を講ずる旨がその中核となっています。いわば、報復措置に対して法的根拠を与えるための法律といってもよいでしょう。しかしながら、中国として、報復措置を講ずるのに真に本法のような法律の根拠が必要だったのか、については、個人的には疑問があります。というのも、「法律なくして制裁なし」という点に本法の制定理由を求めるのであれば、中国がこれまで本法が存在しない状態で有形無形に行ってきた報復的措置はいったい何だったのか、ということになりますし、逆に過去の報復的措置が何らかの法的根拠に基づくものであるならば、そもそも本法の整備など不要ではなかったのか、という疑念も生じるからです。

この点については、中国側の(表側の)ロジックとしては、本法は、細かいことはさておき現政権が喧伝する「法治」(rule of lawではなく、rule by law―私個人は、法家思想に由来すると考えています。)の一環として整備したということになるのでしょう。しかしながら、私としては、上記で述べた制定の必要性そのものに対する疑問から、本法は、その規定内容よりも、むしろ本法のような法律を制定して対外的に表明した「事実」(ないしは政治的行為)が大事だったのではないかと考えている次第です。


4 外国にいればセーフか?

 このように、本法の制定の必要性には疑問符が付くとしても、やはりその内容は一読する価値はあると思います。このうち、私が特に興味深く感じたのは、本法が「我が国の国内の組織又は個人」(我国境内的组织和个人)と「いかなる組織又は個人」(任何组织和个人)とを明確に書き分けている点です。

 このうち、「我が国の国内の組織又は個人」とは、「中国籍を有するか否かを問わず、中国国内に存在する組織又は個人」を指すことは異論の余地がないでしょう。これに対し、「いかなる組織又は個人」については、「中国国内に存在する/居住する」という限定がなされていない以上、理屈上世界中の組織又は個人が対象になると解釈するのが合理です。

 このような解釈に対しては、「いやいや、この法律は中国の国内法なのだから、世界中の組織又は個人を適用範囲にしているはずはないし、仮に適用範囲であるとしても、中国国外の組織又は個人の本法違反を追及するすべがない」という反論も十分想定されます。

 しかしながら、自国法の域外適用については、独禁法等特定の法分野では現実に存在しており、中国の発想としては、本法所定の事項を実現するためには、中国国内のみならず中国国外の組織・個人に対して適用しようとする意図があったとしてもそれほど不自然ではないと思います。加えて、本法第12条第2項は、「いかなる組織・個人が行った本法違反」に対して人民法院での救済を行うことが許容されていることにかんがみれば、仮に当該組織・個人が中国国外に所在する場合であって、中国国内に資産(中国現法に対する出資持分を含みます。)を保有しているときは、なお当該国外組織・個人に対する執行力を伴う本法違反の追及が可能であると評価できます。

 このように見れば、中国国外の組織・個人であっても、特に中国に資産を有する場合には、本法を「中国の国内法に過ぎないから放っておけばいい」という安穏と高みの見物をするわけにはいかず、必要以上に委縮する必要はないとしても十分知っておく必要のあることだけは確かです。

 なお、「いかなる組織又は個人」に対しする規定が存在するのは、第12条及び第14条であり、それぞれ次のように定められています。


第12条 いかなる組織又は個人も、外国の国家が我が国の公民又は組織に対して講じた差別的制限措置を執行し、又は執行に協力してはならない。

2 組織及び個人が前項の規定に違反し、我が国の公民又は組織の適法な権益を侵害した場合には、我が国の公民又は組織は、法により人民法院に訴訟を提起し、当該組織及び個人が侵害を停止し、損害を賠償するよう要求することができる。

第14条 いかなる組織及び個人も、報復措置を執行せず、又は実施に協力しない場合には、法により法律責任を追及する。


5 小括

 上記で述べたように、本法は、ある意味シンボリックな要素が強いと感じられる法律ですが、それでもなお外国企業・個人にとっても相応の理解をしておくべき法律です。

 また、これと同時に、本法から透けて見える国家としての思想・姿勢は、結局建国以来何ら変わっていないことからすれば、本法は、近時の急速な発展などの表層的な事象に目を奪われて中国の本質的部分を見失いがちな我々に警鐘を鳴らしているように思えてなりません。個人的には、むしろこの点こそに本法制定の最大の意味がある、と感じている次第です。



最新記事

すべて表示

中国の「会社法」の大改正-最大の懸念点

2023年の年の瀬も押し迫った12月29日、中国では、主席令第15号により「会社法」(「新会社法」)の改正が公布されました。新会社法は、7月1日に施行されます。 新会社法は、2006年以来の大改正と位置付けられており、従前の条文の調整も相まって、条文も大幅に増加しています。 新会社法の改正点は多岐にわたるのですが、中国に投資している外資系企業(外商投資企業)にとり最もインパクトのあると考えられる点

民商法典の改正と株主総会招集手続

先般ご紹介したタイの民商法典(以下「法」といいます。)の改正法は、予定どおり本年2月7日に施行されました。しかしながら、まだ施行されて日が浅いこともあり、現地での実務運用がまだ確立されていないと言っても過言でない状況です。 そのような中、株式会社(非公開会社としての株式会社をいいます。以下同じ。)の株主総会の招集通知に関して商務省事業発展局(DBD)が2023年1月付でガイドラインを発表していたの

タイ:民商事法典第23版-タイの非公開会社法制の大きな変更

1.「古風」なタイの非公開会社法制 タイに設立された日系企業のほとんどは、民商事法典(日本でいう民法及び商法(会社法、手形・小切手法を含む私法典というべきものです。)に基づく「株式会社」(以下「非公開会社」といいます。)として設立されるものであることは、タイ法務にかかわる方ならもはや当然のことでしょう。 ところで、この民商事法典は、全体を通じて古風な規定が少なからず存在しており、非公開会社に関する

bottom of page