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ミャンマーにおける取締役居住義務の暫定的緩和

更新日:7月21日

 バンコクでの隔離期間も大詰めを迎え、本稿を執筆している今は、隔離生活最後の夜を迎えています。部屋や食事などは非常に良かったので、かなりいい隔離生活だったとは思いますが、もう一度これをやれと言われてもやりたくない、というのが正直なところです。

 さて、タイにいながらミャンマーのお話を一ついたしましょう。

 ミャンマーの会社法では、会社において最低限要求される事項の1つとして、取締役の少なくとも1名がミャンマー国内に通常居住していなければならない、とされています(ミャンマー会社法第4条第(a)項第(v)号)。

 また、ここでいう「通常(の)居住」とは、永住権保有者又は12か月中183日ミャンマーに居住する者をいうとされています(第1条第(c)項第(19)号)。

 ところで、ミャンマーは、新型コロナウイルスの世界的流行により、2020年3月28日からすべての外国人に対するビザの発給を停止するのと共に、翌29日から航空機の乗入禁止措置が講じられるなど、事実上国境を閉ざした状態となっています。現在は、相互の帰国者向けの救済便が飛んでいる様子ですが、9月以来感染者が急増していることからしても、自由な往来は当面困難な状況になると予測されます。

 と、ここで問題になるのが上記の会社法の規定です。つまり、会社によってはコロナ禍で帰国するなどしてミャンマー国内に取締役がいなくなったり、交代の取締役がミャンマーに入国できなくなったりといった状況が生じた結果、本来ミャンマーに居住すべき取締役が上記の183日ルールを守ることができず(守ろうにも守れない)、会社法所定の会社の基本的要求に違反してしまうという状況が出現しかねない事態となりました。

 このような状況を受けたのでしょう、ミャンマーの投資及び企業管理局(DICA)は、10月20日、既に任命済みの取締役について、正式に国境閉鎖が解除されるまでの間については、183日ルールの基数となる「12か月」に含めない旨の規定を発出しました。これにより、現在ミャンマーに居住する取締役がいない会社であっても、その状況が会社法違反とならないことになるため、実務上も非常に重要な規定であるということができます。

 当該規定(告示)につき、私の方でミャンマー語から直接日本語に翻訳をしました。下記のリンクからダウンロードできます。

201020_取締役1名DICA
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なお、DICAでは、英語版も出しておりますが、ミャンマー語版と比べて記載内容に若干の相違(意訳・訳漏れ)がみられるので、ミャンマー語版の内容を一語一句正しく反映したものではないことについてはご注意ください。また、私の翻訳も、ミャンマー語の言い回しを可能な限り忠実に反映させておりますので、日本語としてやや不自然な個所、理解が不十分な個所もある点につき、なにとぞご容赦ください。

 ミャンマー語は、実は日本語と語順がほぼ一緒なため、タイ語に比して訳出が容易な言語です。ただ、日本語とほぼ共通点を有さない語彙、豊富な助詞、辞書に見られない言い回しの存在などは、訳する者をして苦しませます。私も引き続き研鑽を続けていかねば、と、訳しながら改めて思った次第です。

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