中国法を取扱う弁護士の第一義的な役割が顧客のために中国法の知識を駆使して様々な法的問題に対応することであることは、言うまでもありません。しかしながら、その役割を全うするためには、より深い中国への理解が必須であるというのが筆者の信念であり、中国という国を、ともすれば歴史や思想を含めて理解した上で紹介することが、上記の役割と同じくらい重要であると考えています。
とはいえ、在野の一法曹たる弁護士が学者やジャーナリストと異なる形で「独自性」を出していくとすれば、やはり日頃目にする法律・法規からみた中国を紹介する、ということになるのでしょう。「法律から何が分かるんだ」と思われる向きもあるかもしれませんが、そこから出発して様々な背景事情をたどっていくと、良くも悪くも欧米とは全く異なる展開を見せることが少なくありません。中国法を取扱う者の醍醐味は、実際のところそのような点にあると考えています。
さて、このところ、中国の芸能界は、なかなか大変なようです。最近でも、ある著名な女優・映画監督に関するウェブサイト等が中国のウェブ上からほぼ完全に消される件が話題になりました。中国においては、この種の事象が生じても別に不思議ではないというのが筆者の肌感覚ですが、ここ数年、複数の芸能人の脱税事件の摘発等を含め、芸能界への風当たりが強くなっていることは確かなようです。
そういう最中、中国の国家テレビ・ラジオ総局は、本年9月2日にある通知を出しました。この通知は、このような芸能界への風当たりの裏付けであると言えるほか、今の中国そのものを色濃く反映した規定であると考えます。通知の日本語訳を作成しましたので、リンクをご参照ください。翻訳は、あくまでも原文のニュアンスを忠実に反映させており、筆者の個人的思想・信念に基づくバイアスは一切かけておりませんので、その旨ご了解ください。
ここでは、この通知を解説・評価することはあえて避けたいと思います。それは、読者の方にありのままの今の中国を感じていただきたいからです。
ただ、今回の翻訳を通じて、この通知には、非常に驚かされました。それは、単にあまたのネットスラング等の新語が法規上に出現したことへの驚きだけではなく、LGBTQの観点から問題になりかねないような非常にストレートな表現が存在したり、その趣旨が(尋ねてみたところ、中国人ですら)そもそも理解しにくいイデオロギー的色彩を帯びる用語が少なくなかったりするなど、これを作成した部門(更にはその上位機関)の価値観のようなものが通常の法律・法規と比べてもかなりはっきりと見えるように思われたからです。
そして、このような内容の通知を発出するのが現在の中国なのだ、ということを、(中国から見て)外国人である日本人も十分認識した上で、一衣帯水の隣国同士としてどう付き合うかを慎重に考えていかなければならない、と思わずにはいられない今日この頃です。
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