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民商法典の改正と株主総会招集手続

更新日:2023年7月21日

先般ご紹したタイの民商法典(以下「法」といいます。)の改正法は、予定どおり本年2月7日に施行されました。しかしながら、まだ施行されて日が浅いこともあり、現地での実務運用がまだ確立されていないと言っても過言でない状況です。

そのような中、株式会社(非公開会社としての株式会社をいいます。以下同じ。)の株主総会の招集通知に関して商務省事業発展局(DBD)が2023年1月付でガイドラインを発表していたので、これをご紹介します。


改正前の法第1175条は、株式会社(非公開会社)の株主総会の招集通知について、従来最低1回の新聞公告及び株主名簿(原文の文言を厳格に読めば、本当に株主名簿と言えるのか否かには疑問の余地がありますが、ひとまずこのように解します。)上の各株主に配達証明付郵便での送付の両方を要求していました。そのため、株式会社における附属定款(タイでは基本定款と附属定款という2種類の定款が存在します。)においても同様の規定を設けているケースが多く見られるのが現状です。

ところが、改正後の法第1175条は、記名株式を発行する株式会社(少なくとも、日系の現地法人のほとんどがこれに該当します。)については、株主に対する配達証明付郵便の送付のみで足り、新聞公告を要求しなくなりました。

とすれば、記名株式を発行する株式会社については、新聞広告を必要とする附属定款の規定があったとしても改正後の法第1175条により新聞公告が不要となるのかが実務上問題となっていました。


この問題は、法的には改正後の法1175条を強行法規と解するのか、はたまた同条についても定款自治の原則が働くのか、ということになるでしょうが、この点に回答を与えたのが2023年1月に発布されたDBDのガイドラインです。

結論から言えば、当該DBDのガイドラインでは、招集手続との関係では後者の考えが採用され、改正前の法に従った招集手続が規定されている場合には、当該定めに従うものとされました。そのため、そのような附属定款の規定を有する株式会社が改正後の法第1175条に従った手続を行いたいと考える場合には、附属定款を改正しなければならない(株主総会の特別決議を経なければなりません。法第1145条参照)ということになります。


このように定款自治の原則を重視する考え方にかんがみれば、改正後の法に従った運用を行うためには、改正前には矛盾がなかったけれども今回の改正により矛盾することになった附属定款の関連条項を修正しなければならない場面が多くなると思われますので、注意が必要です。

また、その一方で、定款自治の原則が徹底されるべきなのか(逆に法の規定が強行性を有するのではないか)と思われる点もいくつか見られます。このうちある論点に関しては、筆者とタイ人弁護士の議論では解釈の一致が見られたものの、引き続き実務の動向を注視する必要があり、実務の確立にはまだいくらか時間が必要なようです。


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