top of page

「私的」ポストコロナの中国見聞記(その3・了)

更新日:2023年7月24日

過去2回の投稿に引き続き、7月4日から19日までの中国出張で肌感覚として感じたことを備忘録代わりに書いていきます。なお、ここで述べることは、あくまでも個人的な経験に基づくものであって、客観的な検証を経ていない主観的な内容も多く含んでいますので、この点なにとぞご了解ください。


6. 街の雰囲気


私自身が中国とかかわるようになって20年以上経っているせいもあるのですが、少なくとも今回訪問した各都市のビジネスマンや旅行客が行きそうな場所は、以前と比べてとてもきれいに整備され、公園のようにすら感じられるくらいです。逆に、昔ながらの(そして個人的には好きな)ごちゃごちゃした雰囲気を探すのは容易ではなく、その後訪問した香港の上環のごちゃごちゃ感がむしろ懐かしいとすら思いました。

これは、ある意味都市の再開発が一巡したことを意味するのかもしれません。とすれば、その開発に従事してきた労働者の行く先はどこになるんだろうか、という思いも頭をよぎります。


また、市内における電気自動車の普及率は、国の政策の後押しもあって、かなりのものです。そういったことも含めれば、近未来都市の様相すら見せているのが今の中国の大都会なのかもしれません。


7. 日本本社と中国現法との間の感覚の違い


この問題は必ずしも今に始まった問題ではないのですが、近時特に鮮明になっているのが本年7月1日に改正施行された「反スパイ法」に対する対応です。

この点、日本本社側では、最近生じた様々な事象等から同法に対して非常にセンシティブになっており、これに対応するために色々な対策を現法に指示していることが多いのではないかと考えられます。


その一方で、現法の側としては、生の認識として自社のビジネスの中で同法が自らに適用される事態は考えにくい、という感覚のもと、本社からの指示に対して困惑を禁じ得ない(そのような指示を遵守していたら中国でビジネスができなくなるとすら感じる)ケースも少なくないように思われます。


ただ、私個人としては、同法対応のための特効薬は、「ない」といわざるを得ない(もし完全なリスクフリーを志向するならば、中国から撤退するしかない)と思っています。というのも、何がスパイ活動(なかんずく、何が「国家安全」にかかわる事項なの)か、という点の究極的な判断については時々の政治的要素も多く含みうる(言い換えれば、ゴールポストが動きうる)ため、画一的な基準を確立することが非常に困難だからです。その他、対策に関する私見もないわけではありませんが、それはまた別の機会に、としたいと考えています。


8. まとめ―総じて「内向き」な中国?そして、「民間」


まだまだ書きたいことは多いのですが、このコラムではひとまずこのくらいにしておきます。

ただ、今回の中国出張を通じて感じたのは、中国社会のあらゆる点が、この3年半の期間でかなり内向きになっているのではないか、ということでした。それは、外国人はもう入ってこなくてもよい、ないしは「自力更生」の姿勢なのでしょうか…。

また、そういう「内向き」の姿勢を民衆レベルで見た場合には、一方では愛国的言動・行動として発現し、「日本など何するものぞ」的感覚を持つ人が一定数存在することも否定できません。しかしながら、他方ではその内向きな空気に色々な意味で閉塞感を覚える人も多いように感じました。最近復活傾向にある外国への観光客の増大(実際、本原稿執筆時点においてバンコクに滞在していますが、夏休みということもあり、あちこちで中国語が聞こえます。)という形や、近時流行語になった「潤学」(留学のための国外移住)といったような事象も、そういったものの反映ではないでしょうか。


そういう中国に対して日本はどう向き合うべきか、今回の出張を通じても明確な回答を得ることはできませんでした。ただ、上海の浦東空港に向かうタクシーの中での運転手との次のような会話は、私自身にとって日本と中国の付き合い方の1つの在り方を示唆しているような気がしました。ちなみに私は、その直前に中国人の友人から白酒をふるまわれていたので、酔ってテンションが高かったことはここだけの話。


運:「日本のクルマはいい!昔●●(日本の自動車メーカー)のトラックに乗ってたこともあったけど、本当によかったんだ。」

私:「えー、今中国だってEVとかすごいじゃん。」

運:「そうかもしれんが、日本の製品はやっぱり質がいいんだよ。」

私:「確かに、日本は外の見た目よりも見えないところに細かく神経使うからね。」

運:「そうそう。」

***

運:「いやー、日本人が昔中国人に色々やらかしたことは確かだけど、それを今の日本人に責めてもねぇ、って思ってるんだ。」

私:「そうなんだよね。こっちとしても自分自身がやったことじゃないから、いつまでも言われるのは困っちゃうんだよねぇ。」

運:「そうそう。」

私:「中国人はあまり知らないかもしれないけど、日本人は、高校とかで漢文をやったりするんだよ。そういう中で中国の古代文化に敬意を覚えている人も少なくないし、自分もそうだ。ただ、自分の場合には、孔子が嫌いだったから老子とか荘子とかから入っていったけど。」

運:「へー、それにしても、こういう民間交流は大事だよね。」


こんなことを含めて色々話してくれたので、ついつい空港でタクシー代を25元も上積みしてしまいました。

そのせいもあるのでしょうが、丁寧に荷物を降ろしてくれた運転手は、最後に笑顔で「また上海にいらっしゃい」と呼び掛けてくれました。

そういう人がいる限り、私は、中国にかかわり続けていくのだろうと思います。(了)

最新記事

すべて表示

中国の「会社法」の大改正-最大の懸念点

2023年の年の瀬も押し迫った12月29日、中国では、主席令第15号により「会社法」(「新会社法」)の改正が公布されました。新会社法は、7月1日に施行されます。 新会社法は、2006年以来の大改正と位置付けられており、従前の条文の調整も相まって、条文も大幅に増加しています。 新会社法の改正点は多岐にわたるのですが、中国に投資している外資系企業(外商投資企業)にとり最もインパクトのあると考えられる点

bottom of page