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中国の「会社法」の大改正-最大の懸念点

更新日:1月15日

2023年の年の瀬も押し迫った12月29日、中国では、主席令第15号により「会社法」(「新会社法」)の改正が公布されました。新会社法は、7月1日に施行されます。

新会社法は、2006年以来の大改正と位置付けられており、従前の条文の調整も相まって、条文も大幅に増加しています。

 

新会社法の改正点は多岐にわたるのですが、中国に投資している外資系企業(外商投資企業)にとり最もインパクトのあると考えられる点をまずは1点述べたいと思います。

 

それは、比較的大きい会社における「従業員の経営への関与」の可能性です。

 

まずは、関連する条文をご紹介しましょう(訳文は筆者によるものであり、下線部は筆者による強調です。)。

 

第1条 会社の組織及び行為を規範化し、会社、株主、従業員及び債権者の適法な権益を保護し、中国の特色ある現代的企業制度を完全化(中略)するため、憲法に基づきこの法律を制定する。

 

第68条第1項 有限責任会社(注:株式有限責任会社ではありません。以下同じ。)の董事会の成員は3名以上とし、その成員に会社の従業員代表を置くことができる。従業員の人数が300名以上の有限責任会社は、法により監事会を設置し、かつ、会社の従業員代表が置かれている(注:監事会中に従業員代表がいる状況と合理的に解されます。)場合を除き、董事会の成員に会社の従業員代表を置かなければならない。董事会における従業員代表は、会社の従業員が従業員代表大会、従業員大会又はその他の形式で民主的な選挙を通じて選出する。

 

上記のうち、第1条の「従業員の適法な権益保護」というのは、新会社法で追加された制定目的であり、立法当事者が今回の改正の1つの大きな目玉と認識していることが看取されます。そして、その具体化の1つが第68条第1項であると評価可能です。

ただ、第68条第1項は、特に従業員が多い会社にとっては、会社のガバナンスに従業員を直接・間接に関与させることを求めているため、経営上の秘密等が当該従業員の知るところになりうるという問題が生ずることになります。この制度の運用いかんでは、会社の秘密が外部に流出して企業に大きなダメージを与えることにもないので、この規定は、決して軽視できないと評価せざるを得ません。

 

ところで、このように、「従業員の利益の保護」が労働法による規律を超えて会社のガバナンスにまで直接影響を及ぼすという構造は、我々にとっては非常に理解に苦しむのですが、共産党的なロジックからは自然に受け入れやすい素地があるのかもしれません。

この点を真剣に論ずればそれだけでいっぱしの論文ができるのではないかとさえ思われますが、あえて要点をかいつまめば、次の点を指摘することができます。


① 従業員代表大会という制度が中国の本格的な労働法制よりも古い歴史を有している(労働法は、1995年1月1日施行である一方、従業員代表大会という制度自体は、裏付けのない情報の限りでは、1950年代から存在しています。)。

② 従業員代表大会は、そもそも従業員による経営への積極的な関与を目的としている。例えば、上掲「全民所有制工業企業従業員代表大会条例」第7条は、従業員代表大会の職権の1つとして「定期的に工場長の業務報告を聴取し、企業の経営方針、長期及び年度計画、重大な技術改造及び技術導入契約、従業員養成・訓練契約、財務予算・決算並びに自己資金の分配及び使用方案を審議し、意見及び建議を提出し、かつ、上記の方案について決議を実施する。」という規定が見られる。

③ このような従業員の経営への積極的関与というのは、共産党政権の正統性の根拠である「民主集中制」に淵源を有すると考えられる。言い換えれば、共産党政権が続く限り、これを放棄することはおよそ考えられない。

 

筆者は、2002年から本格的に中国法に関与していますが、(まだ知識がなかっただけかもしれませんが、)その時点では既に改革開放が大きく進展し、かつ、「労働法」が存在する状況の中、従業員代表大会というものがいったい何者なのかいまいち理解しがたく、実際、日本企業の中国現法の中における実態を把握しにくい状況でした。

その後、2008年に施行された「労働契約法」に「従業員の利益に直接関係する規則制度の変更に際して従業員代表大会等での討論を行わなければならない」という規定が現れ、その際にもその規定をどう扱うかを議論したことがありました。ただ、その際には、結局「とりあえず全員から何らかの形で了解を取り付ければ」というあたりに落ち着いていったように記憶しています。

 

そのような状況との対比において、今回の規定は、「従業員代表」ないし「従業員代表大会」を、より共産党の原理原則論に沿ったより実質的機能を有するものと位置付けるに至ったというのが、中国法務を続けてきた筆者の偽らざる感想です。これを言い換えれば、改革開放政策の進展の中でうやむやになってきた共産党の思想の根幹にかかわる部分を、いわば「原理主義」的に「是正」した、ということであり、共産党的には(「是正」という言葉がいみじくも示すとおり)むしろとても「正しい」ことを行っているという認識ではないか、と考える次第です。

 

ともあれ、新会社法の上記規定は、外資系の企業に与えるインパクトが非常に大きいため、このような制度が必須とされる企業については、当座必要と考えられる相応の措置(秘密の漏洩を防ぐための各種方策)を講ずる必要が出てくるでしょう。その結果、現法の裁量権が大きく制限されることになるかもしれないでしょうし、更には撤退という選択を余儀なくするケースも出てくるのかもしれません。となると、「改革開放をさらに進展させ、外資を積極的に導入する」とする中国の政策との新たな「矛盾」を惹起してしまうのではないか、という懸念も生じる次第です。

そして、中国法を扱う我々も、今生じている法律の変更への表面上の対策論のみならず、新中国建国以来の法律の歴史を踏まえて現在の法律を論ずべき必要性が高まっているのではないかと考える今日この頃です。


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