1.「ネットワーク安全審査弁法」の改正
中国では、ここ数年、インターネットにおけるデータの取扱い等に関する規定が多く発出されています。そういった中で、2020年に発出された「ネットワーク安全審査弁法」が2021年12月28日に一部改正されました。当該改正版は、2022年2月12日に施行されます。
「ネットワーク安全審査弁法」の概要は、本ブログで2020年5月に2回に分けて掲載しておりますので、これも併せてご参照ください。
ここでは、主たる修正点を述べることといたします(以下において、改正後の「ネットワーク安全審査弁法」を「本弁法」といいます。また、本文中で引用する条文番号は、本弁法のものです。)。
2.主たる改正点
(1) 発布主体の追加
後述する国外上場に関連する規定と併せる形で、中国証券監督管理委員会が発布主体として追加されています。これにより、本弁法は、合計13部門による連合発布という体裁となっています。
(2) 適用対象の追加
本弁法の適用対象に、ネットワークのプラットフォーマーが追加されました(第2条)。また、当該追加に伴い、本弁法の適用対象となる行為に、「ネットワークのプラットフォーマーのデータ処理活動」が追加されています。
(3) 大規模ネットワークプラットフォーマーの国外上場時の安全審査等
100万を超えるユーザー個人情報を掌握するネットワークプラットフォーマーが国外に赴いて上場する場合には、ネットワーク安全審査を受けることが義務化されました(第7条)。
また、当該ネットワーク安全審査を受ける際に提出が必要とされる資料に「提出予定の新規公開株式(IPO)等の上場申請文書」が追加されました(第8条第3号)。
そして、ネットワーク安全審査の際に考慮すべきリスク要素として、「核心データ、重要データ又は大量の個人情報が摂取され、漏洩され、毀損され、並びに不法に利用され、及び不法に越境するリスク」並びに「上場に存在する基幹情報インフラストラクチャー、核心データ、重要データ又は大量の個人情報が外国政府により影響され、コントロールされ、又は悪用されるリスク及びネットワーク情報安全リスク」が追加されました(第10条第5号及び第6号)。
(4) 特別審査手続の期間延長
一定の場合においてなされる特別審査手続の原則的審査期間が、従来の45日から90日に延長されました(第14条)。
3.若干のコメント
(1) 民間企業による資金調達の事実上の制約にならないか?
今般の改正は、上記で見ても明らかなとおり、ネットワークプラットフォーマーの国外上場に対してネットワーク安全審査を義務付けることを大きな目的としていることは間違いないと考えます。
14億の人口を有する中国において、個人ユーザー100万人のプラットフォーマーがどのくらいの規模と言えるのかは筆者としても十分な感覚を持てません。しかしながら、少なくともいえるのは、本弁法により、国家安全の名のもと、民間企業による国外からの資金調達が有形無形に制限されることは間違いないということです。確かに、本弁法自身は、国外上場そのものを禁止しているわけではありません。しかしながら、このような手続規定の存在自体が国外上場計画そのものを抑制する方向に作用するでしょうし、そもそも審査自体が行政裁量の強く働く行為であるため、政府の意向に沿わない国外上場は認められないことになることが強く推察されます。
とすれば、中国がこれから伸ばそうとしているIT産業(民間が主体)は、結局国外からの資金調達に対して萎縮的になり、発展への活力が削がれるという結果に至るようにすら思われます。
(2) 規定の「雑」さ
本弁法により追加された文言の中には、本弁法において十分に定義が与えられておらず、何を指すのか一読了解でない用語があります。
具体的には上記でも言及した「核心データ」及び「重要データ」がこれに該当するわけですが、これらについては本弁法内に定義がなく、いったい何を指すのかが分かりません。この点、本弁法が根拠の1つとする「データ安全法」第21条には、「国の核心データ」及び「重要データ」に関する定義を内包する規定が存在し、おそらく本弁法の「核心データ」及び「重要データ」はこれらのことを述べているのではないかと思われます。しかしながら、これは、あくまでも(相当程度合理的ではあり、確度は高いものの)推測の域を出ない解釈であり、真に対応関係にあるのかは(引用の形をとっていない以上)明らかではないと言わざるを得ません。
その他の追加された規定の文言ぶりからしても、いささか急ごしらえ(なぜ急ごしらえか、という点についても様々な想像が働きますが)の感が否めず、規定としてはいささか雑な印象を受けざるを得ません。
4.筆者の雑感―まとめにかえて
現在の中国は、コロナ禍に基づく国際往来の事実上の遮断と、これに合わせるかのような現政権の「国内目線」を重視するかのような政策の中で、少なくとも外から見た限りでは、コロナ前に比べても変容をしているように思えてなりません。
本弁法も、何としてでも「国の安全」(及びこれと同一視しがちな「ある種」の安全)を維持しようとする政策の表れなのかもしれません。そして、「民間の活力を削ぐ結果となろうとも『国の安全』には替えられない」というのが今の中国政府の考え方なのだろう、ということが、本弁法一つ見ても垣間見られるように思われます。
Comments